「防災と山道具」いざという時に備えておこう
今回のテーマは「防災と山」。山のアイテムが、防災グッズとしても有用だということを踏まえて、好日山荘本社に勤務のあややさんに、登山経験者ならいざという時に備えておきたいアイテムについて、自らの経験も踏まえて、教えてもらいました。
みなさんこんにちは。
街を歩いたり、ネットを見ていると、今年は特に様々な企業や販売店が、“防災”をテーマに様々な取り組みをしているように感じます。
「天災は忘れた頃にやってくる」と言いますが、近年は異常気象が多く、ゲリラ豪雨などもひと昔前よりも頻繁で、自然災害に遭遇する機会が増えたように思います。
私の経験 ――通勤中に大阪北部地震に遭遇――
2018年の大阪北部地震の際、私はちょうど出勤途中で、神戸市内の駅にいました。「あれ? 何か揺れてる?」と思い、取りあえずサッと身をかがめました。揺れが収まってからは駅員さんからの指示でコンコースに移動しました。
しばらく待機指示が出ましたので、この先断水の可能性もあると判断し、まず駅のお手洗いに行きました。本当に偶然だったのですが、その日は山道具を紹介するラジオ番組に出演するという仕事に行く途中だったので、ザックの中にいくつかの登山道具が入っており、ひとまず持っていた座布団を床に敷き(ベンチは既に満席でした)、待機しました。
細かい話は割愛しますが、結局その日は自宅待機となったので、途中でパンと水を購入し、約1時間の道のりを歩いて帰ることになりました。荷物はザック、足元はスニーカーを履いていたので特段支障なく無事帰宅することができましたが、周りを見てみると、スーツやヒールのある靴でお仕事されている方が多く、その苦労を思うと、自分は恵まれているなと少し申し訳ない気持ちになったのを思い出します。
幸いにも大事には至らなかったエピソードなのですが、冷静に行動できたのは、やはり普段から登山を経験していることが大きかったように思います。災害時は、大雨、強風、道のぬかるみ、停電、交通機関の麻痺等が考えられます。これって、悪天候時の山と少し似ている部分があると思いませんか?
みなさんの中には「何かしなければいけない、何か備えなければいけない」と思いつつも、一体何から準備したらいいのか分からず、結局、何も対策をできていないという方が多いのかもしれません。
私自身、小学生の時に兵庫県で阪神大震災を経験しましたが、常日頃から情報や知識の収集を行い、必要な物を備蓄し、地域や職場の避難訓練に自主的に参加する・・・なんて、積極的な行動は取っていませんでした。
ということで、今回は登山を通して、もっと気軽な気持ちでの防災準備について考えてみたいと思います。
登山用品は、実は防災用品も兼ねた商品がたくさんあるんです。
防災グッズとして用意しておきたい3アイテム
登山を経験すると、水を調達すること、トイレの問題、火を使うこと、は自然と身につくことが多いです。
難しく捉えるのではなく、山に行くのと同じように準備をするのがいいのかなと思います。特にテント泊に慣れておくと、自信がつきます。
2018年7月の西日本集中豪雨の際も、私の住んでいる地域では電気が止まりました。
しかしながら、断水しても携帯トイレがある、ガスが止まってもバーナーがある、電気が止まってもヘッドライトがある、色々あると思うと意外と冷静に受け止め、明るいうちにテント泊装備をまとめました。
では、防災グッズとして、何を用意したら良いのでしょうか?
普段から使用している日帰り登山に使用するトレッキングシューズ、ザック、レインウェア、グローブ、ヘッドランプなどの基本装備は必須です。その中でも特に大事な装備が3つあります。
①ホイッスル
助けを呼ぶ際、声を出し続けるのは困難です。少しでも早く気付いてもらうにはホイッスルが役立ちます。キーホルダータイプがお勧めで、私もザックの肩ベルトにいつも付けています。軽く吹いても大きな音が出るものを選びましょう。ザックのチェストハーネスがホイッスルになっているザックもあるので、一度自分のザックを確認してみましょう。
②ヘッドランプ
避難時に明かりは欠かせません。懐中電灯より、両手が自由になるヘッドランプがおすすめです。電池の予備も準備しておきましょう。
暗いとどうしても心理的に不安になってしまいますが、明るいと災害時は絶対的な信頼感があります。
真っ暗な場所で使用する場合を想定し、100ルーメン(明るさの単位)以上のものを選びたいところです。特に登山用のヘッドランプは様々な種類がありますので、分からない場合は販売店スタッフに聞いてみましょう。
③モバイルバッテリー
スマホの普及により、普段から持ち歩かれている方も多いかと思います。通話だけでなく、災害状況の確認など、ほとんどのことを携帯電話で確認する時代ですので、必ず用意しておきたいところです。
外気温が寒い場合、スマホの電池は消耗が激しいですし、登山時にGPS機能を使用したりすると電池の消耗が早いので、持っておいて損はないアイテムです。
その他にも、エマージェンシーキット マルチツールがあれば更に安心です。
ポイントは“すぐに取りだせる場所にあるか”どうか。家のどこかにあっても、すぐに取り出せる場所に置いておかなければ意味がありません。家族がいる方は必ず全員で確認しておきましょう。
食事、水、トイレはどうする? 避難時にも役立つ登山アイテム
災害時に大事なことのひとつは食料です。
美味しそうな缶詰、日持ちのする乾物、アルファ米、行動食として使用するハイカロリーな栄養バー・・・。山ごはんを作る機会が多い私は、日頃からこういった食料をストックしています。
備蓄するぞ! という気持ちではなく、食料品店をパトロールしながら、美味しそうなものを探しているだけで、山の準備と防災の両面で役に立ちます。まぁ、ただの食いしん坊なんですけど(笑)
最近はフリーズドライも非常に美味しいですね。
アルファ米は水で戻して食べられるものもあるので、火の確保が難しい時は重宝します。たまに日付を確認し、賞味期限が近いものは、ごはんを作るのが面倒な時、お家で食べてしまいましょう。
そして食料以上に意識したいのが、“安全な水”の確保。ライフラインの中でも断水が一番辛いかもしれません。給水支援が始まるまで、自分で何とかしなければならない状況がもし発生したら・・・。
地域によっては湧水や、水場として紹介されているような所があるかもしれませんが、可能であれば煮沸して飲みたいところ。ただし、燃料を使用するのは、手間がかかりますので、そんな時にあると便利なのが「浄水器」です。
池や川から直接ポンプで吸って、ろ過することができますし、浄水しながら直接飲むこともできます。都会では、なかなかそんな場所もないかもしれませんが、万が一の手段として非常時の飲料水確保に有効です。
もし、火を使えたなら利便性が格段に上がります。
アウトドアでは手軽に使用できるガスバーナーや、軽量なアルコールストーブなど、様々な種類があります。基本的に腐るものではありませんので、一家に1台、置いておくのも良いと思います。
あたたかい飲み物でホッと一息、1杯の飲み物がきっと心に元気と余裕をもたらしてくれるはずです。
かなり切実な問題なのがお手洗い。待ったなしにやってくる生理現象は我慢ができません。
断水に備え、携帯トイレは常に常備しておきましょう。
使い方は意外と簡単です。車に積載しておくのも良いかもしれませんね。
更にツェルトがあると便利です。
ツェルトとは登山用の簡易テントで、軽くてコンパクトなアイテムです。テントのようにしっかり張らなくても、被るだけでもOKですので、お手洗いの目隠しとして使用したり、着替えたりするのに重宝します。手のひらサイズのものが殆どなので携帯性も抜群です。
テント泊装備(テント、シュラフ、マット)があれば更に快適に過ごせます。
まずは、普段から山道具に触れることが第一歩。
お子様がいるご家庭でも、やみくもに恐れず、最初は楽しみながら防災用品に触れる機会を持ってみることをお勧めします。
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最後に、上記のような“モノの備え”は大切ですが、もうひとつ、お金では買えないのが“経験値”です。
特に単独登山の時は、自分自身が取捨選択しながら進むことが多々あります。こういった経験値がいずれ自分の身を守ることに繋がります。自分自身をしっかりと守れるように。登山を通して、自分で判断できる力や応用力を身に付けていきたいものです。
あやや(好日山荘おとな女子登山部) 兵庫県生まれ。山ガールブームの波に乗り、好日山荘への転職をきっかけに山にはまる。岩場や鎖場などスリリングな場所が好きだが、最近はのんびり登山も楽しんでいる。どちらかと言うと山ごはんより山スイーツを作るのが得意。好きな山域は九州、東北の静かな山。2019年現在、好日山荘・営業企画部に所属。主に社内イベントやおとな女子登山部の企画運営を行っている。